孤独の発明

主に米作りとか酒造りについて

良い酒米って何だろう④

 良い酒米って何だろう    

 

 たとえば、現在酒造用として用いられている酒米のデータを集計して、その相対値で①~⑨の性質を3段階評価にすることなど、できないだろうか(別に5段階評価でも10段階でも、百点満点でも一向に構わないが)。

 千粒重の場合「1……平均よりも大きい、2……平均的、3……平均よりも小さい」みたいな感じで。心白には大きさだけでなく、形状などの要素もある。ミネラルの組成などもあるから、一律に3段階評価で表すことは難しいだろうけど、蔵に届いた米を見る際に、

 「千粒重」「心白の大きさ」「心白の形状」「米の形」「胚芽のとれ易さ」「アミロース値」「軟質米」「たんぱく質の量」「たんぱく質の組成」「割れ」「溶解にかかわるミネラル」「発酵にかかわるミネラル」「脂肪の量」「脂肪の組成」

 などの項目をそれぞれ3段階評価して見れば、その米がどのような特徴を持つのかが理解しやすいと思う。そして、その評点を上の方で作ってみた表に代入してみれば、その米に大体どのような醸造特性があるのか、わかるようになるんじゃないかな? まあ概念的なものではありますが。

 実験して確かめたわけではなく、いろんな教科書とかからいい加減に引っ張ってきた記述を個人的な偏見に従い大雑把にまとめただけのものなので、はっきり言って僕が作った表に根拠はない。

 もしかすると、もっとちゃんとした内容でもっと使いやすいようなものが、どこかで既に作られているのかもしれないが、僕が知りたかった形で作られたもの(品種の特性だけではなく、環境要因や栽培方法による変動などもひっくるめたうえで、実際の酒造りの現場でも使用可能なもの)は探してもなかった気がしたので、こういうものがあっても良いんじゃないか、と。これがそれになるかは別にして。

 

 品種を開発する育種家と、稲を栽培する農家、そして米を作って酒を醸す醸造家は、各人それぞれ「良い米を作り、良い酒を造りたい」と思っているものだと思うし、他の二者に対しても「良い米を作り、良い酒を造ってほしい」と期待しているものだと思うけど、現状、そこに行き違いがあるケースは少なくないように見える。それぞれが情熱とコストを払い、「自分の考える中では良いもの」を作ったとして、それを他の人が欲しがっていない、という状況ほど悲しいことはない。まず「良い酒米」の定義を三者が共有したうえでなければ、目指す方向性も見えてないし、それぞれが果たすべき役割、目標も漠然としたものにならざるを得ない。

 だから、皆がぼんやりと思い描いているイメージを、お互いに理解できるような枠組みはあったほうが良いように思う。

 「良い酒米とはなにか」という問いの意味が、簡単なようで難しいのは、矛盾する答えが同時に多数存在して、しかもそれらがすべて、一定の範囲内では各々正しいからだ。

 「良い酒米」はおそらく単一の姿をしたものではない。佐々木希が美人なことに間違いはないが、ブルゾンちえみにだって崇拝者はいる。

 さまざまな蔵が考える多種多様な「良い酒を造るための米」の姿が明確になって、それが実際に生産されるようになれば、世の酒はもっとバラエティ豊かになるだろうし、たぶん酒を飲むのが今より楽しくなりそうな予感もする。そうなったらいいのにな。

 

 そんなこんなで、僕が考えた限りでは、「良い酒米って具体的に言うとどんなのよ」という質問に対する答えは、

 「千粒重」「心白の大きさ」「心白の形状」「米の形」「胚芽のとれ易さ」「アミロース値」「軟質米」「たんぱく質の量」「たんぱく質の組成」「割れ」「溶解にかかわるミネラル」「発酵にかかわるミネラル」「脂肪の量」「脂肪の組成」に対する3段階の評価ということになり、つまりは 14×3=42 という事になる。

 とても奇妙な偶然の一致ではあるが、この数字はちょうど「生命、宇宙、そして万物についての究極の疑問の答え」に対応する。ここで話は再び宇宙へと戻る。

「良い酒米ってどんなもの? 」という問いが、もしかすると「究極の問い」そのものであるか、あるいはその一部であることは否定できない……かもしれない。

 「銀河ヒッチハイクガイド」の作中でディープソートが設計したコンピューターは、ちょうど惑星ほどもある巨大なもので、その表面には水もあり、生命も育まれていた。ほどほどの知的生命も誕生したが、自分たちがコンピューターを形成する有機的な部品であることにすら気づいていないものも多かった。そのコンピューターの名は「地球」と言った(ちなみに、我々人類は自分たちのことを地球上でもっとも知的な生物だと勘違いしているが、本当のところは上から数えて三番目だという。この本によると、地球上で二番目に頭が良いのはイルカ)。

 我々人類のみならず、地球上に存在するすべての微粒子を含めての目的は、「究極の問い」を算出することであり、その計算には四十六億年の時間がかかると見込まれていた。

 ということは、地球の誕生から四十六億年経た今を生きている僕の頭の中には、結構いい線ついてる計算の結果がでていたとしたって、おかしくはないはずだ。

 「究極の疑問」=「良い酒米ってどんなもの」?

 可能性はゼロではない。

 だが作中では、計算結果がでる五分前に、地球は破壊されてしまう。

 地球の有った宙域は、たまたま銀河バイパスの建設予定地だったので、その工事の一環として壊されたのだった。

 「銀河ヒッチハイクガイド」の物語は、ちょうど地球が破壊される場面から始まる。

 地球が破壊される寸前に、友人(実は異星人)に助けられた、アーサー・デントという名の地球人の唯一の生き残りが、広大な宇宙を寄る辺なくヒッチハイクしてさまよい続ける話である。