孤独の発明

主に米作りとか酒造りについて

日本酒の言葉でテロワールを話そう

 最近、日本酒(清酒)を語る際に、フランス語がよく使われるようになってきた。
 「マリアージュ」「テロワール」「ヴィンテージ」「ドメーヌ」などなど。
 いずれも、ワインを語る際に使われている用語である。
 日本酒を知らない外国の人に、日本酒とはなにか、ということを説明するためには、ある程度共通認識を得られるであろうワインの用語を援用した方が伝わりやすいだろうし、また、日本酒の付加価値を高める上でもワインの能書きを利用することは役に立つのであろう。
 逆に、日本酒の事しか知らなかった造り手達が、ワイン業界で重視されている概念を取り入れることで、日本酒に新たな価値を付け加えよう、という動きにも繋がっているのだと思う。
 日本酒のラベルにヴィンテージなどの文字が書かれるのは、もはや珍しい事ではなくなってきた。
 しかし、ここですこし、立ち止まって問いかけてみたい。
 「テロワール」ってなんだろう?
 「ヴィンテージ」ってなんだ? 「マリアージュ」ってどういう意味?
 もちろん、辞書を引けば、それぞれの言葉の意味はすぐに出てくる。そして、その意味は、日本酒を語る文脈で用いても、決しておかしなものではない。
 けれども、これらの用語は元来、ワインが現在のジョージアに発祥し、中近東を経て、エジプト、ローマ、ヨーロッパ、そして南北アメリカから全世界へと、産地を拡大しながら、何千年かにわたって造り続けられ、文化として成熟していく過程で生まれた概念である。
 当たり前の事を言うようだが、清酒とワインは違う酒である。まず、原料が違うし、作り方も違う。どのようにして産業が発展してきたかも、どうやって人々に受け入れられてきたか、経緯も歴史も異なっている。
 ただ日本酒を説明するのに便利だから、というだけで、安易にワインの用語を使うのは、かえって誤解を生む危険性がある。また、ワインで重視されていることは、日本酒でも同じだけ重要なのか? それは場合によりけりだと思う。

 本文では、まず、最近よく使われるようになったワイン用語が、本来のワインの世界ではどのような文脈で使われているのか、ということを整理したいと思う。
 そして、その用語を日本酒の世界で使う場合に、どのような共通点かあり、また、齟齬があるのか、検討してみたい。
 それから、世界(というか、主に欧米の話になるが)で、普遍的な地位を獲得している二つの地酒、つまりワインとビールと、今のところ日本を中心にしたローカルな存在である日本酒とを比較し、日本酒が世界の酒になるためには、どのような条件が必要となるのか、考えてみる。