孤独の発明

主に米作りとか酒造りについて

良い酒米って何だろう③

 良い酒米って何だろう    

 

 ①大粒(千粒重が大きい)……遺伝要因 大、環境要因 小、栽培法 小、

 米一粒あたりの大きさが大きいほど、精米はしやすくなる。日本で主食用として栽培されている米は千粒重で二十~二十四グラム程度のものが多いが、酒米にされるのは二十六グラム以上の大粒米が多い。

 ・遺伝要因

 千粒重に関しては、遺伝の要因がもっとも大きい。米の品種によって、千粒重の大きさはさまざまである。

 米粒の幅、厚み、高さなどは、複数の遺伝子の関与によって決まるもので、量的な形質と呼ばれる。ただ、華吹雪や兵庫恋錦などの、酒米の中でも極大粒と言われるような品種には、米粒を大きくするための特定の遺伝子の作用しているものもある。

 遺伝要因に関して、一つ注意しなければならないのは、品種の変質である。酒米は各県によって奨励品種が定められており、それらに関しては、品種としての均一性を保てるように注意して種子が生産されている。しかし、酒蔵と農家が個人的な関係で協力して「奨励品種外の他県の品種を作ってもらいたい」とか「昔栽培されていた古い品種を復活させたい」などというような場合には、少数の農家が自家採種によって種子を増やす場合もあるだろう。自家採種を行う場合、別の品種の種子が混入したり、あるいは自然交配や突然変異によって遺伝的に変化することも有りうる。特に、自然交配や突然変異による品種の変質を避けるのは、個人単位の採種では難しい。そのために栽培開始当初に見せてた性質が、いつの間にか変化してしまった、という話はよく聞く。

 千粒重に限らず、遺伝要因に大きく影響を受ける形質全般に言えることだが、そもそも種は変化し続けるものだ。その変化の幅を小さくし、望ましいと考えられている性質を維持し続けるために、実は非常に大きな労力が払われている。

 ・環境要因

 同一品種内でも、千粒重の大きさには多少のばらつきがある。

 環境要因でいうと、生育期の水温気温が不十分で、稲が十分に体づくりを行えていない状態で出穂してしまったり、出穂後から収穫までの気温が低すぎて種子が十分に成熟しきらなかったりすると、千粒重は小さくなる。

 また、朝晩の気温の差が大きい地域では、稲が夜間に行う呼吸による炭水化物の消費が抑えられるので、胚乳にデンプンが貯まりやすく、米の密度が増して千粒重は増える。

 最近問題になっている高温障害も、千粒重に影響を与える。登熟期の気温が30度以上になると、稲は光合成ができなくなり、さらに夜間気温も下がらなければ、ただデンプンを消費するばかりの「高温障害」におちいる。千粒重が低下するばかりではなく、乳白米の発生、米の消化性が悪化したんぱく質の量も増えるなど、大体ろくなことがない。

 ・栽培法

 広い意味でいうと、たとえば晩生の山田錦を寒冷な地域で栽培することによって、上記の環境要因で説明したような結果になることも、栽培法の要因に当てはまることではある。

 だが栽培上の技術的なことに限って言うと、窒素質肥料の施肥量が、千粒重に最も大きな影響がある。

 窒素質肥料が過剰にあると稲は、「肥料がいっぱいあるんだから、いっぱい種子を作っても大丈夫だろう」とばかりに、多くのモミをつけようとする。だが、稲の光合成の能力には限界があるので、モミが多く実ってしまった場合には、一粒あたりに配分される光合成産物(デンプン)の量が少なくなるので、千粒重は低下する。

 また、窒素のやりすぎで収穫前に倒伏すると、それ以上モミが成熟することはなくなるので、未熟な小さな米ができる。

 窒素施肥以外にもいくつかの要因があるが、細かい点を挙げていくと長くなるので割愛する。要するに、稲が健全に生育して、十分な光合成をおこなうことができたら、米の千粒重は大きくなる、ということ。

 

 ②心白……遺伝要因 大、環境要因 小、 栽培法 小、

 精米した米粒が、半透明に透き通って見えるのは、デンプンの粒が規則正しく並んでいるから。心白や腹白の部分が白く見えるのは、その部分のデンプンの並び方が粗くになって、光を乱反射するからである。米の内部には分子レベルの細孔と、心白米の場合は中心部に小さな亀裂がある。米に吸水させる際、水分はこの間隙に保持される。細孔の量については品種による差異はあまりないが、亀裂による間隙の量は品種間で差が大きく、心白のある米では特に大きくなる。

 米は水を加えて加熱すると、一定以上の温度になると水を吸収して膨張する(アルファ化)。アルファ化した米の内部には、水で満たされた多くの隙間ができており、麹菌の菌糸はこの水を求めて米の内部に入り込み、酵素は隙間に侵入して液化や糖化を促進する。しかし、アルファ化した米を低い温度で放置しておくと、デンプン分子同士がくっつこうとする力によって、米にできた隙間が小さくなり、内部に入り込んだ水が排出される(ベータ化=老化)。老化すると米は弾力を失い、菌糸の侵入や酵素作用を受けにくくなる。

 心白米は、米粒中心部の密度が小さく、間隙の大きさも大きいので、吸水しやすい。アルファ化したのちも、米内部の隙間が大きいので麹菌の菌糸が侵入しやすく、もろみの中でも酵素が内部まで浸透しやすくなる。また、もともと米の内部に亀裂や隙間が多くあるので、低い温度で置いておいても中の水が排出されにくく、老化の進行が遅くなる。

 心白が大きければ大きいほど、吸水性、菌糸、酵素作用などが大きくなり、老化の進行も遅くなるが、一方で精米時の砕米率が高くなる。心白が小さければ逆に精米歩留まりは高くなり、高度精米がしやすくなる。

 心白が中心部にあれば、精米の際の割れが少なくなるが、中心部からずれているいわゆる「心白が流れた」米は精米の際に割れやすくなる。

 心白とよく似たもので、「腹白」と呼ばれるものがある。米粒の白く濁った部分が、米粒の外側にまで広がるような形で表れている状態の米である。心白と同じく、その部分はデンプン粒同士の並び方が粗くなっているが、内部に小さな亀裂がないので心白ほど吸水性や酵素の作用を受けにくい。腹白米は精米の際に非常に割れやすいので嫌われる。

 ・遺伝要因

 心白発現率と心白の形状は、遺伝による影響が大きい。米粒の大きさとか形状をつかさどる複数の遺伝子の働きに左右されるそうだが、心白の発現そのものにかかわる遺伝子が存在する可能性もあり、今のところはっきりとしたことはわかっていないそうだ。だいたいは品種で決まる。一般に、大粒米に心白が出やすいとされているが、同じくらいの大きさの米でも、心白発現率は品種によってかなり差がある上、心白の形状もさまざまである。雄町のように菊花状の大きな心白を持つものもあるし、山田錦のように線状の心白のもの、東北地方の酒米で最近流行っている点状の小さな心白、さらに外見上は心白が見えないが、内部に小さく、粗なデンプンと亀裂を持つ「心白状構造」を持つ米もある。

 腹白米も遺伝の影響が大きい。腹白米は横幅の広い米に現れることが多い。早生の大粒品種(島根県だと佐香錦とか)に特に多くみられる。

 ・環境要因

 心白がどういう仕組みで表れるのか、についてはいくつかの説がある。はっきりとしたことはわからないが、米粒が登熟する際の条件によって、心白の発現率とか形状が左右されることが考えられる。

 心白は一般に大粒の米に出やすいので、米粒の外側と内側の温度差によってできているのではないか、という説。その場合には、朝晩の温度差が大きい高地では、心白発現率が高くなることが考えられる。

 また、晩生の品種では登熟期後期ほど気温が低くなるので、米粒中心部のデンプン粒が正常に発達しなくなり、心白として現れるという説。その場合、登熟期間中の気温が高ければ心白は小さくなり、低ければ逆に大きくなる、という事が考えられる。

 登熟期間中の米粒は、本来なら心白を中心にして、デンプン粒を均等に蓄積していくものだが、登熟期間に気温が下がりすぎると、デンプンの蓄積が不均衡になって、心白が流れる現象が発生する可能性が高くなる。

 高温障害による乳白米は、高温によって光合成能力が低下し、呼吸による光合成産物の消費が増えたことで、種子にデンプンが正常に蓄積されなかったためにおこる現象。心白に似ていなくもないが、剛性が小さく精米に耐えられないので、無効精米歩合が高くなるだけ。

 ・栽培方法

 心白は、大粒の良く発達した米に現れる性質であるので、米一粒一粒が十分に実っていると心白発現率が高くなる。

 千粒重と同じく、窒素肥料をやりすぎてモミを多くつけさせ過ぎないこと。窒素施肥以外にもいくつかの要因があるが、細かい点を挙げていくと長くなるので割愛する。要するに、稲が健全に生育して、十分な光合成をおこなうことができたら、米の心白発現率は大きくなる、ということ。

 

 ③米の形状……遺伝要因 大、環境要因 小、栽培法 小、

 「酒米ハンドブック」というマニアックな本があって、タイトルの通り酒米の写真と解説が書かれた本だ。百五十種類ほどの酒米が淡々と紹介されている内容で、とてもすばらしい本だと僕は思っているが、たぶん写真の取り違えがあったとしても気づく人はいないだろうな、と読むたびにいつも感心する。

 米粒の形状は一見どれも差がないようだが、よく見ると品種によってちょっとした違いがある。その差異は、特に精米の際に問題になってくる。

 米に含まれるたんぱく質と脂肪の大半は、胚芽と糊粉層(赤ヌカ)に含まれる。精米の目的はまずこれらを取り除くことで、精米歩合75%くらいまで削ったら、大体赤ヌカは取り除ける、という事になっているが、実際には完全に取り除けているわけではない。

 玄米のたんぱく質が多いとか少ないといったことは、胚芽の大きさや糊粉層の厚さによって決まる(あるいは逆に胚乳部分が小さいと相対的にたんぱく量は増える)が、これらの赤ヌカ部分が削り易いか否かによっても、精米の効率は大きく変わる。

 胚芽は精米の初期段階で一見簡単に外れているように見えるが、実は胚芽の一部が胚乳の部分に入り込んでいるため、入り込んだ部分が深いか浅いかによって削りやすさが違うらしい。

 また、米の表面には大小の溝が存在するが、この溝が深いほど精米の際、米に糊粉層が残りやすいので、精米効率が悪くなる(扁平精米という、米を平べったく削る方法なら、米の溝に残った糊粉層を削りやすいそうです)。

 ・遺伝要因

 米の形は遺伝によって変わる部分が大きい。細長い米よりは、円形に近く厚みのある米のほうが削りやすい。

 米の胚芽や溝は、主食用の一般米よりも大粒米のほうが大きく、削り残しは多くなる。

 大粒米の中でも溝の深さには差がある。玄米に含まれるたんぱく質量と、白米に含まれるたんぱく質量との差を調べれば、米の形状による精米効率の違いはわかる。

 ・環境要因

 同じ品種の間では、充実の良くない米粒ほど米の溝の深さは深くなる。よって、登熟中の気温が低かった場合などには、米の溝は深くなる。

 ・栽培方法

 同様に、栽培方法によって、米の充実が悪いと、米の溝は深くなる。

 

 ④アミロース……遺伝要因 大、環境要因 中、栽培法 小、

 稲は、光合成によって糖を作るが、糖のままでは保存性が悪いので、デンプンの形に変えて炭水化物を種子に蓄えていく。米のデンプンには、アミロースとアミロペクチンという二つの形態がある。

 アミロースグルコースを一本の鎖状につなげていった形をしており、アミロペクチングルコースをトーナメント表のような枝分かれした形につなげている。形が違うので物理的な特性も違う。蒸米触って「固いな」と感じるのは、大体アミロース値が高いことが原因のようだ。インディカ米とか酒米のようにアミロース値が高いものは、パサパサして粘りのない米になる。一方で、アミロペクチンが百パーセントであるもち米は、強い粘りを持つ。

 日本の米はアミロース値が15~25パーセント程度のものがほとんど。主食用の米はアミロース値が低いほうが「もちもちして甘みがあっておいしい」という事で、現代ではコシヒカリを筆頭に低アミロース米が大流行しているが、酒造用に使われる米の場合はややアミロース値が高い米が多い。これは、アミロース値が低いと粘りが出るので、作業性、特に蒸米の放冷や麹の床もみがやりずらいから、という事が大きいだろう。

 ただ消化性は、アミロース値の低い米の方が高い。デンプンを分解する酵素であるαアミラーゼは、デンプンの分子を末端の一方向からしか切断できないらしい。アミロースは一本の鎖状なので、一か所の末端から順々に、鎖を切断して分解していくしかないが、アミロペクチンは枝分かれしているので、切断可能な末端の数も多い。また、デンプンのβ化(老化)も、アミロペクチンの方が進行が遅くなるという。

 よって、消化性だけならアミロース比率の低い米のほうが高い(アミロース0%のもち米は消化性が良いために、蒸してそのまま四段に使われる)が、作業のやりやすさ(想像したくもない光景だが、蒸しあがったもち米をそのまま連続式放冷機に入れたら、巨大な切り餅になって出てくるのではないか)や、糖化と発酵のバランスなどもあるから、「高ければよい」とか「低ければよい」というようなものではないようだ。

 ・遺伝要因

 米のデンプンに含まれるアミロースとアミロペクチンの比率は、おおむね品種によって決まる。コシヒカリアミロース値が17パーセント程度、山田錦で26パーセントほどだという。

 もち米はアミロースを作る遺伝子が完全に壊れた突然変異で、低アミロース米アミロースを生産する能力を一部失った米だから、どちらも元々はアミロースを含むうるち米から分化したものだという。アミロースの生産量が少ない性質は劣勢の遺伝子なので、たとえばもち米の花粉がうるち米にかかって他家受粉しても、もち米になるわけではない(逆の場合では、もち米にうるち米が混じってしまう)。

 ・環境要因

 登熟期の気温によって、アミロース値は上下する。登熟期の気温が高いほど、アミロース値は小さくなる。気温が低いと増える。

 なので、山田錦とか五百万石のように、広い地域で栽培されている米の場合、登熟期の気温が低い産地ほどアミロース値は高くなるはず。

 ・栽培方法

 同一品種内でのアミロース値の変動は、登熟期の気温に左右される。そのため、早植えや遅植えによって登熟する時期が変わると、アミロース値も変わってくる。

 稲が生育する環境は、地域の平均気温がすべてではなく、田んぼの条件(日陰にあるとか、夏場にアスファルトの熱を浴びるとか、冷たい山水が入ってくるとか)にも影響されるので、作付けする順番や品種を工夫したり、水管理などによって、ある程度なら気温の変動にも対処できる。

 

 ⑤軟質米(アミロペクチンの側鎖が短い)

 「軟質米」という言葉の定義は、おそらく使う人によってさまざまだと思う。「心白があって吸水が早く、溶けやすい」米だとする人もいるだろうし、「アミロース値が低く、触った感じが柔らかくて消化性が良い」米のことを指す人もいるだろう。

 ただ、この二つは別の項目で書いたので、ここでいう軟質米は「米のデンプンに含まれるアミロペクチンの側鎖が短く、酵素の作用を受けやすい米」という事にしておく。

 アミロペクチンは、トーナメント表のように枝分かれした形をしているが、この枝分かれした部分(側鎖)の長さが長くなると、酵素の作用を受けにくくなる。アミラーゼはデンプン分子の末端の一方向からしか切断できないので、側鎖が長くなれば長くなるほど分解に時間がかかるから。

 ・遺伝要因

 品種による影響がまず大きい。酒米の中でも、消化性が良いとされている品種は、アミロペクチンの側鎖が短い。特に、晩生の品種は、登熟期の気温が比較的低く、デンプンの蓄積がゆっくり行われることもあって、アミロペクチン側鎖の短いものが多い。

 ・環境要因

 登熟期の気温の影響が大きい。登熟期の気温が低いほど、アミロペクチンの側鎖が短くなる。

 「冷害の年に腐造なし」ということわざがあるが、これは冷害が起こるような年には結果的、にアミロペクチンの側鎖が短い、消化性の良い米ができるからではないか。

 最近は地球温暖化のためか、夏秋の気温が高い年が多く、はっきりと高温障害がでるところまではいかなくても、登熟期の気温が高くなる影響で米が固くなる傾向にあるという。

 ・栽培方法

 アミロースの項と同じ。同一品種内でのアミロペクチン側鎖の変動は、登熟期の気温に左右される。そのため、早植えや遅植えによって登熟する時期が変わると、アミロペクチンの側鎖の長さも変わってくる。

 稲が生育する環境は、地域の平均気温がすべてではなく、田んぼの条件(日陰にあるとか、夏場にアスファルトの熱を浴びるとか、冷たい山水が入ってくるとか)にも影響されるので、作付けする順番や品種を工夫したり、水管理などによって、ある程度なら気温の変動にも対処できるはず。

 

 ⑥たんぱく質……遺伝要因 大、環境要因 中、栽培法 小、

 米に含まれるたんぱく質の大半は、胚芽と糊粉層に含まれる(赤ヌカ)。糊粉層のすぐ下に、亜糊粉層と呼ばれる層があり、この部分もたんぱく質をそこそこ含んでいる。

 糊粉層、亜糊粉層の内側に、デンプンを貯蔵するためのデンプン貯蔵細胞が並んでいる。デンプン貯蔵細胞は、細胞壁の中に小さなデンプン粒がぎっしり詰めこんだ構造。デンプン貯蔵細胞に含まれるたんぱく質は、細胞壁の内側に、デンプン粒を包み込むように存在している。そしてデンプン貯蔵細胞一個あたりに含まれるたんぱく質の量は、米粒の中心付近の細胞になるほど少なくなる。特に、心白の部分のデンプン貯蔵細胞は、細胞壁の未発達な粗い細胞で、たんぱく質の量は少ない。なので、「米のたんぱく質を減らしたければ、中心まで削れ」という事になる。

 酒米を評価するうえで、たんぱく質の量はかなり重視されている項目だと思うが、一口に「たんぱく質が多い」と言っても、様々な意味がそこには含まれている。

 米に含まれるたんぱく質の絶対量は、「胚芽の大きさ」「糊粉層の厚さ」「デンプン貯蔵細胞に含まれるたんぱく質の量」で決まる。

 さらに、胚乳の大きさが大きければ、相対的に米のたんぱく質量は少なくなるので「胚乳の充実具合」もたんぱく質量に影響をあたえる。

 先にも書いたが、「米の形状」によってもヌカのとれ易さは違うので、実質的なタンパク量の多寡に関与する。

 それから、「米が蓄えるたんぱく質の種類」によっても、もろみの中では大きな影響がある。たんぱく質は顆粒の形で米の中に蓄えられ、これはプロテインボディ(PB)と呼ばれている。白米中に含まれているPBにはPB-ⅠとPB-Ⅱの二つの形があり、このうちPB-1のほうは酵素によって分解されにくい形をしているので、もろみになかでも分解されずに粕になるが、PB-Ⅱのほうはがっつり溶けるので雑味の原因となる。PB-Ⅱの主成分は、グルテリンというたんぱく質

 それで、米のたんぱく質が多いとどんな悪影響があるのか、というと。

 まず、胚乳の発育が悪いためにたんぱく質量が多くなっているのなら、必然的に千粒重も小さくなっているわけなので、精米歩留まりは悪くなるし、心白発現率も悪くなる。これはたんぱく質が原因であることには違いないが、直接には千粒重や心白がかかわることになるので、表の中では書いてない。

 たんぱく質が多くなると、水が米の中まで浸透しにくく、アミラーゼなどの酵素が中のデンプン細胞まで届かない。よって吸水性、消化性に影響がある。

 もろみの中で、たんぱく質はαアミラーゼを吸着するので、これまた消化性を悪くする原因になる。

 そして、もろみの中でたんぱく質が分解されることによって、アミノ酸が生成され雑味が生じる原因となる。

 結局、少なければ少ないほど良い、という事になると思うのだが、たんぱく質の少なさと米の収量はおおむね反比例するものなので、経済面を考えると簡単にはいかない話になる。

 ・遺伝要因

 品種による差が大きい。たんぱく質の絶対量は遺伝で決まり、相対量は環境要因や栽培方法で決まる場合が多い。

 玄米に含まれるたんぱく質量と、白米にした時のたんぱく質量(精米効率)、それからたんぱく質の種類、というのが品種を見る上でのポイントになると思う。 

 一般に、早生品種よりも晩生品種のほうがたんぱく質量は低い傾向にある(登熟期の気温が低いことと、光合成に使える期間が長いことが原因か)。

 米に含まれるたんぱく質の種類も、品種によっていくらか差がある。山田錦たんぱく質は、PB-Ⅱが比較的少ない。また、腎臓病患者のために開発された「低グリテリン米」というものがあり、これはもろみの中で分解されないたんぱく質が主体で、実質的に低たんぱくの米になることから、酒造用の掛け米としても使われたりしているらしい。

 ・環境要因

 一般に、登熟期の気温が高いほど、たんぱく質は多くなる。そのため早生の米が晩生よりたんぱく質が多くなる傾向にある。

 また光合成の行われない夜間の気温の影響が大きく、夜間の気温が高いと呼吸による光合成産物の消費が促進されるので、デンプンの蓄積量が減ってたんぱく質が多くなる。よく「高地の米は美味しい」と言われるが、それは高地では夜間の気温が低くなるためもあるだろう。

 高温障害を受けると、たんぱく質の量は相対的に増える。

 逆に、登熟期の気温が低すぎても、米粒に十分な光合成産物が蓄積されないので、たんぱく質の量は相対的に増える。

 ・栽培方法

 窒素施肥の過剰が、米のたんぱく質を増やす一番大きな原因。ただし、窒素が少なすぎるために稲が十分に成長できず、モミの登熟率が下がって、結果として一粒あたりのたんぱく質が増える、という事もある(僕も一度やってしまったことがあります)。

 それから、極端な早植えや密植も、たんぱく質量に影響する。要するに、稲がしっかり光合成ができ、米一粒一粒に十分光合成産物が蓄積されれば、たんぱく質は少なくなる。

 

 ⑦割れ……遺伝要因 中、環境要因 小、栽培法 中、後処理 大、

 割れには、米を目で見たときに確認できるような大きな割れと、目では見えないけどごくごくわずかに入っているヒビのようなものがある。どちらにしても、吸水の際にそこから水が侵入して割れてしまうので、できればないほうが良い。

 米粒の水分条件が急激に変わると、内部に存在する細胞で圧力の不均衡が生じ、割れが生じる。酒造好適米(心白米)は特に、中心部に亀裂があることと、外部に並ぶ細胞の密度は高いが内側は粗であること(心白構造)などから、一般の食用米よりも割れが生じる可能性が大きい。さらに、精米時と枯らし時に、急激な水分量の変化が生じる、という事もある。

 精米以前の段階で割れが生じていると、精米時の砕米比率が高くなるので、真精米歩合が低下する。

 精米~枯らし時に生じた割れは、酒造の際に様々な悪影響を及ぼす。

 米が割れると、その部分から水が一気に浸入するので、吸水が早くなる。割れた米と割れていない米が混在している場合には、米の吸水率に差が出てくる。

 吸水の際に米が完全に割れてしまって小米になると、米の表面積が増えるのでサバケが悪くなる。また、割れた部分のデンプン粒が露出して、デンプンが水に溶けだしてくるので、米が上粘りするようになる。

 米の割れは、特に精米効率とサバケへの影響が大きい。

 ・遺伝要因

 心白が小さく、米内部の亀裂が小さく、吸水が少ない品種は比較的割れが少ない。アミロース値の高い米も吸水が少ないので、比較的割れにくくはなる。

 大吟クラスにまで高度精米する場合、割れが原因での歩留まりの低下は大きくなるので、千粒重や心白の大きさと並んで、特に重要になってくる要素だと思う。

 しかし醸造適性のことを考えると、割れにくい米とはある意味酒にしにくい米でもある。

 ・環境要因

 田んぼで生じる胴割れには、登熟初期の高温障害によって生じるケースと、収穫間際の降雨や台風による水分量の変化、刈り遅れでの過乾燥が原因で起こるケースとがある。天候ばかりはもうどうにもならないことであるが、それでも適切な品種を適切な時期に作付けし、計画的に刈り取りを行っておれば、リスクを減らすことはできるはず。

 ・栽培方法

 高温障害が出るような早植えの作型は避ける。あるいは、高温時には水のかけ流しなどで温度を下げる。

 収穫時期が秋雨前線に重ならないようにし、早生~晩生までいくつかの品種を使い分けることで稲の収穫時期をずらし、極力刈り遅れが起こらないような作付けを行えば、田んぼの時点での割れはある程度抑えられると思う。

 ・後処理

 稲を収穫した後の乾燥と、精米時の乾燥、精米した米を使用するまでの枯らし期間におこる、水分条件の急激な変化によって米は割れる。

 なので水分量の変化がゆっくりならば、比較的米は割れにくくなる。稲を収穫した後の乾燥の際は、高温で乾燥することは避け、モミの温度が35度以下になるように乾燥機を設定すれば、米の割れは少なくなる。最近の、といっても二十年ぐらい前の乾燥機でも、コンピュータ制御による温度設定ができるものは多い。水分量を表示するディスプレイとか何かのボタンがあるあたりに、カードみたいなものが差さっていたら、それはプログラムカードです。だいたいの農家さんは、一般米用の最速で乾燥できるプログラムのカードを、機械買って以来十数年間は差しっぱなしにしているものだと思いますが、というか機械を中古で買ったからそれ以外のカードを持っていないという農家さんも多いと思いますが、実は他にも米をゆっくり乾燥させるためのプログラムカードなどもあり、それを使えばボタン一つ押すだけで、モミを乾燥させた時点では割れを少なくできます。ただし、それまでより数倍乾燥に時間がかかってしまうので、そのためにそれなりの対価を払わなければ、農家の経営からすると厳しい面もある。

 精米の際にも、急激な水分量が起こさないように、米の品温の急上昇に注意して精米すれば、精米時での割れの発生は抑えられる。ただ問題はそこから先の話。

 農家での乾燥が済んで、玄米になった時点では、水分量が十五パーセント程度あるので、空気中の水分を急激に吸って割れるようなことはあまりないが、酒造用に高度精米された米は水分が十パーセント以下にまで減少しているので、非常に水を吸いやすくなっている。

 精米機内部での吸水もあるし、袋に詰めた後でもガンガン水は吸う。

 精米機内部を除湿し、精米したてで乾燥した状態から、紙袋に入れて枯らしを行う実験を行ったところ、一日目の時点で吸湿によって割れが増え始め、二日にはかなりの数が割れ、三日放置した米はほとんど吸えるだけの水を吸って割れが激増し、それ以降はあまり割れの増加がなかった、という結果になったそうだ。米袋の中心部と外側でも吸水率に違いは出るし、米袋の積み方によっても吸湿の仕方に差が出るという。なので、紙袋とは違って吸湿が起こらないようなパッケージに、精米した米を入れることもあるらしい(僕は見たことはないが)。

 

 ⑧ミネラル等……遺伝要因 小 環境要因 小、栽培法 中、

 米の表面に着いた麹カビが菌糸を伸ばし、酵素を生産する際、あるいはもろみの中で酵母菌が増殖しアルコール発酵を行う際には、様々なミネラル分やリンなどが必要。これらの養分の多寡によって、米の溶解や発酵の強弱が左右される。

 日本酒の発酵はだいたい米と水だけで行われるので、発酵に必要なミネラル分等も、基本的には米と水に含まれたものだけが麹や酵母に利用される。水に含まれるミネラルよりも、米に含まれるミネラルのほうが割合としては大きいが、絶対量だけではなくそのミネラルが麹や酵母が利用できる形であるか、という事も重要。

 ミネラルは米の重量の一パーセント程度含まれ、主な成分はリン、カリウムマグネシウムであり、この3つだけで90パーセントを占める。その多くは胚芽と糊粉層に含まれる。特に胚芽に多い。なので、精米歩合が高くなると、米に含まれるミネラルの量は減少する。精米によって減少する比率は、ミネラルの種類によって違い、玄米の時点での含有量を100とした場合、60パーセント精米時で、カルシウムと亜鉛が30パーセント程度の残存率。マンガンと銅が15パーセント、リンとカリが10パーセント、マグネシウムと鉄がほとんど0%程度の残存率を見せる、というデータがある(米は日本晴……というか、赤本からそのまま引っ張ってきたデータなので、詳しくはそちらを参照)。ただし、玄米のままで長い期間置いておいた米(古米)は、胚芽や糊粉層のミネラルが米の内部に移動するので、精米した場合でも米にミネラル分等が残りやすくはなる。

 米の中に遊離体として存在している場合と、結合体として存在しているが酵素の影響を受けて溶け出す場合、それから酵素の影響を受けても反応せずに粕まで移行する場合の、3パターンある。遊離体として存在している場合反応性は高いが、洗米の際に流出したりする量も多い。

 それぞれ個別に、多い順番から見ていくと、

 「リン」酵母の増殖と発酵に利用される。酵母は、米の中に含まれている有機体のリンを直接利用することができないので、麹の酵素によって無機化されて利用される。

 「カリウム」は微生物の増殖と発酵に必須で、麹カビの増殖と酵素生産、酵母菌の増殖と発酵、どちらにも影響を与える。米の中には遊離体で存在するので、洗米の際に流出しやすい。洗米した後「かけ流し」をすると、カリが減って発酵を穏やかになるとか。

 「マグネシウム」も微生物の発酵に必須の元素で、これも遊離体の形で存在するので利用されやすく、洗米の際に流出しやすい。

 「カルシウム」は主に米の溶解にかかわるが、米の中に含まれている物よりも、水の中に含まれているもののほうが影響は大きい。むしろ、米は水中のカルシウムを吸着したりする。一応、米が糖化される際にもろみの中に放出される。

 「マンガン」は乳酸菌の増殖に必須の元素だが、清酒中に多く含まれると日光着色の原因になる。酸性の状態だと、溶出されやすい形で米の中に存在している。

 「亜鉛」は直接的にはかかわりがないが、米の中ではたんぱく質と結合した形で存在するので、亜鉛が多ければ米の中のたんぱく質も多い、という指標になる。

 「ナトリウム」は必須の元素ではないが、カリウムが少ないときには代わりに利用されることもある。米の中では遊離体で存在するので、流出しやすい。

 「銅」は米の中に結合体として存在し、糖化されると溶出する。あまり多いと酒の混濁の原因になる。

 「鉄」も結合体として米中に存在し、糖化によって溶出する。微生物も微量は必要とするが、多すぎると異常着色、香味を悪くするなど、良いことはない。

 「硫黄」は有機体として米の中に存在する。米の硫黄は微生物の増殖にも発酵にもあまり影響しないが、糖化に対して発酵が前進しすぎたときにでてくる硫化水素臭にちょっとだけかかわっている。

 ・遺伝要因

 米の品種によって、ミネラルの成分は微妙に変わってくる。また、胚芽の大きさや糊粉層の厚さによって、含まれるミネラルの絶対量は変わる。

 ・環境要因

 栽培する田んぼの水に含まれるミネラルの組成や量によって、米に含まれるミネラル量も変わってくる。

 ・栽培方法

 施肥量の影響が大きい。一般に、作物の三大栄養素は「窒素」「リン」「カリ」という事になっている(五大栄養素だとこれに「カルシウム」と「マグネシウム」が加わる)。

 それぞれ作物に必須の栄養素だが、良くも悪くも過剰症欠乏症の影響が見えやすい窒素に対し、リンやカリなどは多少やりすぎても品質の低下や倒伏の原因になったりするわけではないので、「足りないよりは多すぎたほうが良いだろう」という農家心理から、過剰施肥されている場合が少なくない。というか、「リンとかミネラルをいっぱいやっておけば、米の茎が丈夫になるから、窒素をいっぱいやっても倒れにくくなるはずだ」などと考えて、積極的に過剰状態を作り出している農家さんは、結構多いように見える。

 あと、稲のために良かれと思って、家畜ふんを多く使いすぎたりすると、ミネラル分が過剰になりやすい。家畜ふんの窒素は即効性がなく、鶏糞は全窒素量のうち、施肥してから1年間で使用可能になるのが6割程度、牛糞とかだと2~3割程度しか効かない。リンは窒素よりも植物に吸収される形に変わるのが早く、カリウムにいたってはそのままの形で植物吸収されるので、窒素量を基準に家畜ふんを施肥すると、必然的にカリウム、リンが過剰になる。田んぼの場合は畑よりも肥料分の流亡が多い。よほどのことがない限り、田んぼで過剰症が出ることは少ないだろう。とはいえ、毎年毎年大量に家畜ふんを使っていると、肥料分やミネラルのバランスが崩れて、そのうち害も出てくると思う。

 カリウムが過剰な土壌では、稲が生育に必要な量以上を吸収してしまう「ぜいたく吸収」という現象が起こるので、やりすぎには注意が必要。

 

 ⑨脂肪……遺伝要因 中、環境要因 小、栽培法 小、

 玄米には約2パーセントの脂肪が含まれており、その大半は胚芽と胚乳部分(赤ヌカ)に存在する。たんぱく質の場合と違い、赤ヌカの部分に存在する比率が高いので、精米によって比較的容易に取り除くことができる。

 赤ヌカに含まれる以外の白米中の脂肪は、デンプン粒の中に含まれるので精米してもあまり減少しない。ただし、精米を進めていくと、香りの生成を阻害する不飽和脂肪酸オレイン酸)の比率が低下し、飽和脂肪酸(パルミチン酸)の比率が高まるという。

 脂肪酸は、酵母の香気エステル生成の際に影響し、不飽和脂肪酸エステルの生成を大きく阻害する(と、赤本に書いてました)。

 ・遺伝要因

 品種が与える影響は、おおむねたんぱく質の場合と同じようなもの。胚芽と糊粉層の厚さで脂肪の絶対量が決まり、その削りやすさによって精米時の脂肪の減りやすさが決まる。白米中に含まれる脂肪は、たんぱく質の場合よりもかなり少ないが、ただ白米のデンプン中に含まれる脂肪の種類の比率は、品種によって違いがあるらしい。それによって、酒造の際に実質的に問題になる脂肪の量にも、差は出てくるものと思う。

 ・環境要因

 これも、環境がたんぱく質量に与える影響と似ている。しっかり登熟できた米粒なら、胚芽や糊粉層に対しての胚乳の大きさが大きくなるので、相対的に脂肪の量は減る。

 ・栽培方法

 たんぱく質のところとほぼ同じ。しっかり光合成させて、米にデンプンを蓄積させること第一。