孤独の発明

主に米作りとか酒造りについて

良い酒米って何だろう②

  良い酒米って何だろう    

 

 そもそも、酒造の際に問題になる米の性質ってどんなものだろう、と考えてみて、とりあえず思いついたものを列挙してみよう。

 

 ・精米歩留まりの良し悪し

 ・吸水の早い遅い

 ・サバケの良しあし

 ・麹にした時の酵素力価の強弱

 ・溶け(消化性)の良し悪し

 ・デンプンの老化の早い遅い

 ・発酵の強弱

 ・雑味の多い少ない

 ・香りの出やすさと出にくさ

 

 こんなところだろうか。

 それで、これらの条件を満たすのは、具体的にどのような米だろうか、とさらに考えてみると、

 

 ・精米歩留まり(大粒(千粒重が大きい)、心白が小さい、米の形状が良い)

 ・吸水(心白が大きい、割れが多い、たんぱく質が少ない)

 ・サバケ(割れにくい、アミロース値が高い)

 ・麹の力価(大粒、軟質米、心白大、ミネラル等が多い)

 ・溶け(軟質米、心白大、ミネラル等が多い、たんぱく質が少ない)

 ・老化(軟質米、心白大、アミロース値が低い)

 ・発酵(ミネラル等が多い、心白大)

 ・雑味(米の形状が良い、たんぱく質少、ミネラル等が多い)

 ・香り(米の形状が良い、脂肪が少ない)

 といったところになると思う。

 

 ところで、酒米には、品種によって、年度のよって、産地によって、あるいは農家によって様々な違いが出てくる。これらの違いはなぜ生まれるのか、とそれぞれ考えてみると、

 

 ・遺伝的な要因(品種) 

 ・環境要因(水温、気温、日照条件等)

 ・栽培法による違い(施肥、水管理、栽培時期)

 ・刈り取り後の処理(乾燥、精米、枯らし)

 

 などの要因があげられるだろう。

 上で挙げた酒米の条件、その条件を満たす酒米の性質、その性質がどのような要因によって決定されるのかを、それぞれまとめて見ると、

 (各項目の左に書いてある大・中・小は、酒米の各性質が与える影響力とする(仮))

 

 ・精米歩留まり

 大(①大粒(千粒重が大きい)……遺伝要因 大、環境要因 小、栽培法 中、

 中(②心白小……遺伝要因 大、環境要因 小、 栽培法 小、

 小(③米の形状……遺伝要因 大、環境要因 小、栽培法 小、

 大(⑦割れ少……遺伝要因 中、環境要因 小、栽培法 中、後処理 大、

 

 ・吸水

 中(②心白大……遺伝要因 大、環境要因 小、 栽培法 小、

 中(⑥たんぱく質が少ない……遺伝要因 大、環境要因 小、栽培法 大、

 中(⑦※割れが多い……遺伝要因 中、環境要因 小、栽培法 中、後処理 大、

 

 ・サバケ

 大(④アミロース値が高い……遺伝要因 大、環境要因 中、栽培法 小、

 大(⑦割れ小……遺伝要因 中、環境要因 小、栽培法 中、後処理 大、

 

 ・酵素力価

 中(①大粒(千粒重が大きい)……遺伝要因 大、環境要因 小、栽培法 中、

 中(②心白……遺伝要因 大、環境要因 小、 栽培法 小、

 小(⑤軟質米……遺伝要因 大、環境要因 中、栽培法 小、  

 小(⑧ミネラル等が多い……遺伝要因 小 環境要因 小、栽培法 中、後処理、中、

 

 ・溶け

 中(②心白大……遺伝要因 大、環境要因 小、栽培法 小、

 中(④アミロース値が低い……遺伝要因 大、環境要因 中、栽培法 小、

 大(⑤軟質米……遺伝要因 大、環境要因 中、栽培法 小、

 中(⑥たんぱく質が少ない……遺伝要因 大、環境要因 小、栽培法 大、

 小(⑧ミネラル等多……遺伝要因 小 環境要因 小、栽培法 中、後処理、中、

 

 ・老化

 中(②心白大……遺伝要因 大、環境要因 小、栽培法 小、

 中(④アミロース値が低い……遺伝要因 大、環境要因 中、栽培法 小、

 中(⑤軟質米……遺伝要因 大、環境要因 中、栽培法 小、

 

 ・発酵

 中(②心白大……遺伝要因 大、環境要因 小、栽培法 小、

 小(⑧ミネラル等多……遺伝要因 小 環境要因 小、栽培法 中、後処理、中、

 

 ・雑味

 小(③米の形状……遺伝要因 大、環境要因 小、栽培法 中、

 大(⑥たんぱく少……遺伝要因 大、環境要因 小、栽培法 大、

 小(⑧ミネラル等多……遺伝要因 小 環境要因 小、栽培法 中、後処理、中、

 

 ・香り

 中(③米の形状……遺伝要因 大、環境要因 小、栽培法 中、

 大(⑨脂肪が少ない……遺伝要因 中、環境要因 小、栽培法 小、

 

 という感じになるのではないだろうか。大中小とかの評点は、あくまで僕の直観にしたがってなんとなく付けたものなので、「具体的に何パーセントくらいやねん」とか聞かれても、すいません、はっきりとは答えられないのですが。

 また、これらの項目は、厳密にいうと独立しているわけではない。例えば精米歩留まりが良ければ、実質的な精米歩合が上がるから、たんぱく質量や脂肪は少なくなって、雑味が減り香りは立ちやすくなる。吸水性は、麹の酵素力価や消化性にも影響が大きい。だから個々の要素を独立した数字で表すのは難しい、あくまでこれは概念的なもの。

 酒米の性質を表すために、現在では酒米の統一分析法というのが用いられている。ただ、統一分析法はその酒米の性質を表すことはできても、なぜそのような性質になったのか? その性質が実地の酒造りにどういう影響を及ぼすのか? などといった疑問には答えてくれない。

 だから、この一覧が現時点でどの程度妥当かはともかく、こういうものがあるとちょっと便利なんじゃないかな、と前々から考えていたので、思い切って作ってみた(怪しげな所がたくさんあると思うので、だれか気づいたら教えてください)。

 例えば、「去年に比べて吸水が明らかに遅いな」とかって思った時に、この一覧から逆引きして、「水分量は変わらないし、心白の出方とか割れ方は去年とあまり変わらない。品種も農家さんも同じだから、これは気候の問題かな」みたいに、米に起因することなら、ある程度原因を推定できるようになるんじゃないかと。

 それから、「なんか造ってる酒の雑味が気になるな」とか思った時には、使う米の品種を変えるとか、あるいは品種はそのままでも、農家さんと話し合って栽培法を変えることで米のたんぱく質を減らせないか、みたいな使い方もできるのではないだろうか。

 一覧の各項目の上に①~⑨までの数字を振ってみたが、実はこの数字にもまったく意味がないわけではない。一応、酒米の性質が具体的にはどのように決定されるかを、番号の順に調べてみようかな、と。