孤独の発明

主に米作りとか酒造りについて

元祖亀ノ尾の品種特性

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 四月二十日に浸種。発芽時間はそれほど早くなく、四月三十日頃に鳩胸状態になる。

 五月九日に播種。温床マットを用いて三十二度で二日間加温し、芽出し。発芽率は良いが、あまり苗に勢いがない。

 五月二十七日に定植。苗の生育は、他の品種に比べるとあまり良くない。

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 同時期の他の品種に比べると明らかに弱々しい。

 

 七月三十日に出穂。穂ぞろいはあまり良くない。出穂が早かったので、この品種も雀の餌食となる。

 九月二十三日成熟、同日刈り取り。

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 ひこばえが多い。

 

 育種当時は早生とされていたそうだが、現代の基準では早生の晩か中生の早くらいではないか。

 積算温度1314度となったのは、幸玉と同じく雀に食われた一番穂の後に出てきた二番穂が成熟した温度で刈り取りを行ったから。本来であれば九月の上旬にはとれていたと思う。

 茎数22本くらい。一穂粒数110粒くらい。草丈100センチくらい。穂長19センチくらいで、桿長79センチくらい。

 発芽率はまともだったが、苗の段階から生育があまり良くなかった。保存中に種が劣化したという可能性もあるが、品種自体は古いけれど取り寄せた種は比較的最近ジーンバンクに送られたもののようなので、よくわからない。

 出穂した時点では、他の怪物クラスの稲に比べると背の低い方だな、と感じたが、かといって倒伏しにくいわけではない。茎が細くてとても柔らかいうえに、穂がぴょこんと葉の上に飛び出るようなトップヘビーの特徴的な草型をしており、生育期間中に特別強い風雨に遭わなかったにもかかわらず、根元で茎が中折れした。そこから立ち上がるようにして穂が保ったので、一応は倒伏を免れたが、今回栽培した稲の中ではもっとも悲惨な姿だった。

 雀に食われた影響で、二番穂が主になったという事も大きいのかもしれないが、穂の方も出来は良くなかった。出穂後しばらくたって穂の一部がそれなりに色づき始めても、穂の内の半分くらいのモミは一向に熟す気配がなく、まるでバイカラーのスイートコーンのようにまばらな色付きになった。

 穂が成熟する目安は「一穂のモミの中、八割程度が成熟した時」なので、成熟を待っていたが、九月に入るとひこばえがどんどん出てきて、真っ青なモミをつけた小さな穂がめちゃくちゃ増えてきたので、「もうこれ以上成熟を待つのはやばいんじゃないか」と思って刈り取ってしまった。

 ダメな穂ときれいな穂の差が激しく、きれいな穂についてはたしかに良質米なんだな、と納得させられるものだったが、悪いものは本当にひどかった。この悪さに、雀がどれほど影響を与えていたかは定かではないが。

 パッと見、稲の姿を比較した感じでは、この品種の生育が最も悪く、栽培しにくそうな品種だな、と思った。

 

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 千粒重は23.6g、心白発現率は5%。

 近所の直売所の食味計によると、水分16.5%、たんぱく質8.9%、アミロース15.9%。

 

 小粒だが、粒の大きさが揃っていて、外観品質は良い。あれほどひどい穂から、よくこんなきれいな米がとれるものだな、と感心したくらい。

 たんぱく質がやたらと高いのは、雀にやられた影響もあるかもしれない。雀の被害が多かった幸玉でも、異常な値を出していたし。

 心白発現率は低い。アミロース値も低めだから、サバケはさほど良くないのかもしれない。

 

 亀ノ尾にはロマンがある。戦前には東北地方の吟醸躍進を支え、「夏子の酒」の龍錦のモデルになって一気に知名度を上げた。復古米というジャンルそのものを作り上げた歴史的な品種である。

 しかし、単純な栽培性や醸造適性なら、亀の尾を改良して作り上げた「たかね錦」や「美山錦」の方がよほど優れているのではないか、と個人的には思う。

 米自体はきれいで悪くなさそうに見えるから、在来種の亀の尾の中から千粒重や心白発現率の優れた種を選抜しなおせば、それなりに酒にしやすい米になりそうだと思うが、「栽培しにくく、酒造原料としても扱いが難しい」というプリミティブな性質が亀ノ尾の魅力の一つになっている部分もあるだろうから、悩ましいところである。