孤独の発明

主に米作りとか酒造りについて

もろみ日数

 今年は、例年に比べてもろみ日数が短いタンクが多い。

 

 僕が勤めている蔵は、一応冷房設備が備えられているので、今年の暖冬の影響でもろみの温度が上がる、という事は起こっていないはず。

 むしろ、今年から作った麹を冷凍庫で保存して置くことで、作業を分散して休日をつくる、という体系に代わったこともあり、水麹の際に冷凍麹に入れられることで、仕込み温度が下がって、品温の経過は全体的に少し低くなっている。

 水麹温度が低くなると、必然的に掛け上げ気味になるわけだから、米の溶解は良くなってしかるべきだけど、去年よりボーメが低くはないが高くもなっていない。

 冷凍麹は酵素力価に影響はない、と言われているが、やはり冷凍されることによって細胞組織が破壊されるわけだから、酵素の抽出がはやくなって、もろみ後半まで平行複発酵が続かないのだろうか? この辺のことは判然しないが、冷凍麹を使ったらもろみ日数が短くなった、という話は今のところ聞いたことはない。

 

  他にも原因はいくつか考えられるが、白米水分率が低くなったこととが主な要因ではないだろうか。

 今年から、白米水分率で吸水率を合わせているので、昨年までの吸水率より場合によっては2%以上少なくなった。そのことにより、麹の出来は見た目では変わったようには思えないが、掛け米では同じ水分率にしていても、米によって手触りが分かりやすく変わった気がする。

 以前、白米水分を合わせたら、米毎の差異が少なくなって、どの米を使っても同じような酒になってしまうのではないか、などと危惧していたが、その予想とは逆で、米の違いによる変化が大きくなったように思える。

 コシヒカリや八反錦、五百万石のような硬い米は、掛け米が硬く、もろみのボーメも出ずに前急型の短いもろみになり、改良雄町や山田錦のような比較的柔らかい米はもろみの経過も去年とさほど変わらないようだ。

 改良雄町や山田錦は使用量が少なく、今までに仕込んだ16本の内、改良雄町が2本、山田錦が1本だけをみた感想なので、この三本の経過がたまたまそうなっただけなのかもしれないが・・・・・・

 対策としては、麹を変えるか増やすか、掛け米の吸水率を増やすか、もろみの品温経過を変えるか、といったことになるのだろうか。

 

 本日上槽した五百万石60%18号酵母は、もともと日本酒度マイナスで上槽する計画だったこともあるが、もろみ日数20日という、基本低温で長期間引っ張るうちの蔵にしては非常に珍しい短期もろみになった。

 「原酒のアルコール度数を低くして口当たりを良くする」という狙いはあったのだが、上槽前のアルコール度数が16度に届かず、狙っていたよりずいぶん低い。

 いったいどんな酒になったのだろう、と不安になったが、利き酒は信用できない。年明けから引いてる風邪の影響で、鼻が使い物にならず、また痛めているのどを直すために舐め続けているのど飴のせいで、舌がバカになっているからだ。

 一応利いてみたが・・・・・・去年より香りが低く、含み香も薄いような気がした。もっとも、鼻がダメなので匂いを感じられなかっただけかもしれない。で、気のせいかも知らぬが微妙に4VGっぽい香り。

 当たりは柔らかで、グルコースの甘みがあり、軽い酸、かすかなうま味と渋みがあり、後口にやや苦味を感じた。全体的に味が薄い印象を受けたが、アルコール度数が低いためか、なめらかで飲みやすいと言えなくもないのかな。酒が苦手な人でもいけそうな。

 なんとなく、まだ酒になる前のもろみの分析ろ液を利いたときのような、未熟な感を受けたのだが、具体的にどこがどう、というのはうまく指摘できない。自分でもわかるくらい、鼻と舌がダメになっている。

 

 考えてみれば、最近流行りの低アルコール原酒も、米を溶かさずに造っているわけだから、この酒とさほど変わらないようなものだと思うんだが、なにか違うところがあるのだろうか?

 この酒が製品になったら買ってみて、他所の酒蔵の低アルコール原酒と利き比べてみたい。そのころには風邪も治っているだろう。