孤独の発明

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雄町1号の品種特性

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 この品種と八反流2号に関しては、種の注文が遅れたので他の品種と比べて、播種日で約一週間、定植日で三週間遅くなっている

 五月十二日に浸種。

 五月十七日に播種。気温が上がってきていたので、温床マットだと温度が上がりすぎるかな、と思ったので無加温で発芽させる。そのため発芽は遅れたが、発芽率は悪くなかった。

 六月十九日に定植。苗の生育は、八反流2号よりはマシだがさほど良くはない。定植可能になるまでにやや時間を要し、さらに八反流と同時に植えたかったので八反流がそれなりに生育するまで待っていたから、播種から定植までに長い時間がかかってしまった。

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 定植一月。八反流よりはだいぶ元気が良い。

 

 九月三日に出穂。穂ぞろいはあまり良くなく、中心部分から次々と新しく穂が出てくるように、だらだらと出穂。中生曲玉ほどひどくはないが、改良雄町に比べるとだいぶ野生的。

 十月二十二日に成熟、刈り取り。

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 晩生。出穂から成熟までの積算温度は860度。ずいぶん不足した感がある。

 雄町1号はジーンバンクのデータを見た限り、岡山の赤磐雄町などよりも早く、八月下旬くらいに出穂するものだと思っていたが、九月三日まで出てこなかった。

 今回の栽培では結果的に、岡山県で栽培されている赤磐雄町の栽培指針通りの定植期に定植したことになった。岡山県の栽培指針では、九月五日ごろが出穂期という事になっていたので、気持ち出穂が早いと言えなくもない。しかしジーンバンクのデータでは八月二十日くらいに出穂していたりもしていたので、予想以上に遅い。僕が今回の試験で行っている出穂の定義は、プロのちゃんとした判定よりもニ~三日遅れる、という事を割引いても。

 もしかすると、この雄町1号は感光性がやや弱くて早植えのきくタイプなのかもしれない。元々の雄町は感光性が強いため、早植えしても日長が一定以下になるまでなかなか出穂しないという性質があるが、もし雄町1号が感光性のやや弱い特徴を持つ品種だった場合、早植えすると出穂期を前に持ってくることができるから、岡山ほど暖かくない地域でも登熟期間を十分にとれる可能性がある。

 この品種をもっと早く播種して定植していれば、その辺のことが分かったかもしれないのに・・・・・・無念。今年の種を取っておいて、来年は早植えを試してみたい。

 

 茎数22本くらい、一穂粒数150粒くらい、草丈115センチくらい、穂長21センチくらい、稈長95センチくらい。

 草丈が長いことは長いが、他の品種を見ているので驚きはない。やや茎数が少なめで、周りの晩生品種に比べると(あくまで周りの品種と比較して、の話ではあるが)スクっと立ち上がるようなスマートでおとなしい印象さえ受けた。

 茎はさほど太くなく、コシもあまりある方ではないが、他の品種に比べると一穂粒数は少なく穂が軽いためか、台風24・25号の直撃を受けても影響は少なかった。

 ノゲが少しあり、モミや茎にちょくちょくアントシアニンの着色が見られた。

 なかなかモミに色が付かないので心配していたが、平均気温がガクッと下がった収穫十日前くらいから急に色が付き始めて、どうにかこうにか成熟はしてくれた。意外にも登熟率は悪くなかった。他の品種に比べると一穂粒数がやや少なめだからであろうか。

 成熟した穂が、異常に脱粒しやすいことは気になった。刈り取ろうと思って茎をつかんだだけで、成熟したモミがパラパラ落ちてくる。どうやっても収穫時にロスが出やすそう。「古い品種は収量が上がらない」といわれる要因の一つには、こういう事もあるのかな。

 

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 千粒重は26.2g、心白発現率は45%。

 近所の直売所の食味計によると、水分19.0%、たんぱく質6.8%、アミロース値は17.4%。

 

 思いのほか千粒重が小さく、心白発現率が低い。未熟な粒が多く、米の表面の筋が深くて、見た目が良くない。心白は思いのほか小さいが、心白がでた粒でも、ほとんどが中央部から流れて腹白になってしまっている。登熟条件が悪かったせいだろうか。

 心白のずれが顕著だった八反流2号に比べても、心白の流れ方がひどく、精米時の歩留まりが非常に悪そう。戦前、そして現在でも珍重されている備前雄町とは似ても似つかない、痛ましい姿である。

 一応、食味計の数値を見る限りでは、たんぱく質がそこそこ低く、アミロース値も高めなので、それなりに使いやすいようにも思えるが、とても高度精白に耐えられる米ではないと思う。

 取り寄せた種が良くなかったのか、栽培条件が悪かったのか、そもそも雄町1号という品種は元々こんなものなのか、わからないけれど、「雄町」という名前だけに踊らされてはいけないな、と思い知らされた。