孤独の発明

主に米作りとか酒造りについて

平成三十年度に行った試験栽培と特性調査のやり方について

 H29BYの酒造期、季節前講習会で島根県で戦前に栽培されていた酒米品種のことを知った。元々、稲作の歴史や古い時代の酒米については興味があったので、それらの品種について調べてみよう、と思い立った。

 「八雲」や「曲玉」などは、現在ではあまり知られていないけれど、当時は統計に載る程度には広く栽培されていた品種であったので、ジーンバンクや戦前の九州帝国大によって行われた特性調査のデータベースには記録があった。それらを見ると、ある程度どのような品種であったのか、大まかな推定はできるようになったが、文字や数字の羅列から稲の姿を想像するよりも、実際に栽培してみてどんな感じなのか調べてみたほうが手っ取り早いんちゃうけ? という気がしてきた。

 幸いジーンバンクには、調べたいと思った品種に関して、ほとんど保存されており配布も行われているようだったので、取り寄せて試験栽培を行ってみることにした。

 ただ、僕は稲の試験栽培など生まれてこのかた一度もやったことがない。

 中学生の頃の自由研究で、当時流行っていた「水の伝言」というオカルト本の内容を検証してみるために、きれいな言葉をかけたもやしと、ひたすら罵声を浴びせ続けたもやしの生育の違いを調べる、という実験ならやったことならあるが、三日目くらいにめんどくさくなって、以後放置した挙句、当初の仮説に合うように適当に写真を作って学校に提出したら、教師からはやたらと高評価だった。これは小保方さんに肩を並べるレベルの立派な科学偽装だから、僕は科学者の道を選ばなくてよかったなー、と今更ながら思うが、三つ子の魂百までも、というやつで、厳密な実験というのは体質的に向いていない気がする。

 一応やってみた結果を主観的にまとめてみたが、どの程度正確な結果が出たのかは、無責任な話だがやった本人にもわからない。

 

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 ジーンバンクから配布されるのは、一種類につき五十粒程度。これを育苗箱に播いて発芽させ、手植えする。苗の土の色が異なるのは、播種の際に土が足りなくなって買いに行ったから。最初の土の同じものがどうしても見つからなくて、仕方なく別のものを購入して使った。成分的にはさほど変わらないが、実験としては本来ならばこの時点で失格である。

 写真のものは、「幸玉」「亀の尾」「旭」「八雲」「中生曲玉」「福山」「亀治」。いずれも四月二十日に浸種、五月五日に播種、五月二十七日に定植。

 その後、やっぱり「雄町一号」と「八反流二号」も作っときたいなーと思ってジーンバンクに追加注文。これらは五月十二日浸種、五月十八日播種、六月十九日定植。

 

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 定植一か月後の様子。手前から、福山、幸玉、八雲、旭、亀の尾、亀治、曲玉、雄町、八反流。

 本来の試験栽培では、このように一列に一本ずつ植えたりはしない。というのは、日照条件などの環境が良くなりすぎて、 稲が非常に旺盛に生育してしまうからだ。具体的に言うと、分げつが多くなり穂に着く粒数も増える。ひこばえも出やすくなって、特に早生の亀の尾と八反流では、穂が完熟する前にひこばえが穂を出し始める、などという現象もみられた。

 実際の栽培環境とかなり異なるために、こういう植え方をした稲のデータは、栽培現場でのデータと異なることを認識しなければならない、と後に現場確認をしてもらった県の農業普及員に突っ込まれた。

 

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  また、稲穂が密集しておらず横から穂に近づきやすいためか、雀による被害が非常に多くなった。特に出穂の早かった幸玉や亀の尾は、対策が後手に回ったこともあり、被害粒が増えた。

 

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 一般的に稲の出穂の定義は、五割ほど穂が見えた時、とのこと。僕は当初我流でやっていたので、この画像くらいの時点で出穂と判別していたけど、これでは少し遅い。結局調査方法を統一するために、同じやり方で出穂の判断をすることにしたが、今回の特性調査での出穂期は、プロが行う試験栽培での出穂期よりも二~三日遅くなっている。

 

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 モミの成熟歩合が八割以上になったら成熟したとみなし刈り取り。刈り取った稲はハゼ干しで乾燥。

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 ハゼ干しだと十六パーセントくらいまでしか乾かない。

 水分が十六パーセント程度になったら、(※すり鉢とゴムボールを用いて籾摺り。少量だけ籾摺りをする場合、他に良い方法を思いつかなかったのだが、この方法の場合籾摺りと同時に若干胚芽や糊粉層も削れてしまう。)

 ※10月14日追記。小型のもみすり器を使うことで、もみすりに伴う問題は解決出来ました。

 

 

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 ガラスのテーブルに米を広げ、下からライトを当てて心白発現率を確認。ピンセットで無作為に整粒をピックアップして、一粒ずつ心白の有無をカウントして分類。五百粒数えた平均を求める。

 この五百粒を、誤差0,1グラムの高精度な電子秤で計量し、その数を二倍して千粒重を求める。(※写真の通り、籾摺りの際に胚芽が削れているものも多いので、実際の千粒重よりも、計って出たものは5~10パーセント程度は軽くなっているような気がする。)

 

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 近所の産直市に置いている米の食味計。なにやら、試料(米)に遠赤外線を当てて、その光の屈折率の違いによって、米に含まれる成分の量を分析し、たんぱく質量やアミロースの割合を測定するそうな。

 もちろん校正は行われているのであろうが、おそらくは直売所で一番よく売れるコシヒカリの食味を図るために調整されているだろうし、他の品種を測定した場合には誤差が出るのではないか? とか、そもそも心白は米内部のデンプンの組成が租になって、光が乱反射することによって白く見えるはずだが、光の屈折率で分析する場合には心白があると正確に測れないんじゃないか、みたいな危惧はある。

 (※さらに、すり鉢で籾摺りをした玄米は、若干表面の糊粉層が削れて表面がすりガラスのように乱れてしまうので、精度はさらに悪化する恐れがある。)

 一応この機械を用いたデータも取っておくが、信頼性に乏しい。ただ、絶対値は正確ではないにしても、前提条件は今回試験した米同士では等しいから、相対的にどの米がどのくらいか、という比較はできないこともないと思う。

 

  こうして書き出してみると、改めて「穴だらけのひどい実験だなあ」という思いが強くなる。

 ここまでいい加減だと、むしろデータなど無いのと同じではないのか、という気さえしてくるけれど、まあ、普段圃場で仕事の片手間に行っている『実験』はさらにいい加減なものなので、数字があるだけ「農家が試しに育ててみた感想」よりは多少信ぴょう性はあるのではないか、と言い訳をしてみる・・・・・・