孤独の発明

主に米作りとか酒造りについて

生老ね

 とある事情で、去年の生酒を、今年の普通酒に返すことになった。

 元は良い酒だし、氷点以下の冷蔵庫で保存していたから、案外まだ状態は良いのではないか、と予期していたけど、ふたを開けてみたら生老ねがプンプン。

 生老ねの香りは、人によって好みがわかれ、別に気にならないしむしろ適度にあるくらいなら好き、という人もいれば、わずかに感じただけでもうダメ、という人もいる。

 僕の場合、どちらかと言えば、後者に近い。酒のことを良く知らず、真っ白な頭で日本酒を飲んでいた頃には、生老ね=生酒の香り、と思っていたので、何も気にしていなかったが、「生老ねは良くない」みたいな智識をつけてからは、逆に妙に気にするようになってしまった。

 生老ねの香りを、意図してつけている蔵は、一部の例外(玉川とか)を除いてまずないと思うが、生ひねの香り自体が悪いかどうかというと、そこは完全に人の好みである。一応、仕事で酒造っている者としては「でも、生老ねはオフフレーバーって教科書に書いてあるし・・・・・・」という、固定観念があるから、素直に良いとは言いにくいが、別に嫌いにならなければならない理由はない。

 そう、頭では考えていても、匂いを感じると、「あ、生ひねだ、この酒生ひねてるぞ! 」と反射的に思ってしまうのだが、これはもう職業病みたいなものかもしれない。

 

 低精白の超辛口みたいな辛くてごつい酒の場合、わずかに生ひねが入っていたほうが、口当たりが柔らかくなって飲みやすいこともあるので、その辺をあえて狙ってみると、案外面白いのではないだろうか。