孤独の発明

主に米作りとか酒造りについて

遠呂智舞

 島根県酒米新品種の名が正式に「縁の舞」に決定したようで、目出たいことである。

 正直、ぱっとしない名前だと思うが、決まってしまったものはしょうがない。公募で決定するとなると、どうしても無難なものが選ばれてしまうのだろう。文句のつけようがないということは、目立った特徴もないということで、酒米の魅力は名前だけで決まるものではないとはいえ、消費者に与えるインパクトが薄いのではないか、と思ってしまう。

 新品種の名前が公募されていた時に、僕も応募したものがある。

 「遠呂智舞(おろちのまい)」というもので、これが「縁の舞」よりマシな名前かどうかは各人の判断に任せるが、僕なりに考えた名前ではあった。実際、公募の最終候補にも残っていたようで、惜しいところまではいっていたようだ。

 実はヤマタノオロチの漢字表記には二種類あって、日本書紀では八岐大蛇、古事記では八俣遠呂智となる。島根で酒、と言えばなんといってもヤマタノオロチ伝説であるが、大蛇ではなんだか、蛇っぽさが出て飲む気がそそられないし、古事記の古めかしい漢字のほうが古代出雲の神話的な雰囲気が出て良いんじゃないかと考えた。

 また、県西部で盛んな神楽でも、「ヤマタノオロチ」の舞は非常に人気のある演目だし、この品種は島根県で開発された「神の舞」の血を引く品種であるから、「遠呂智舞」でどうだ! と思ったのだが・・・・・・

 

 そして、落選した今だから言えることなのだが、「遠呂智舞」という名前を押したのには、もう一つ裏の理由がある。

 ヤマタノオロチは毎年、越の国(ざっくり福井富山新潟の辺り)からやってくるという伝承があるのだが、古事記の本文では「高志の八俣遠呂智、年毎に来たり」と記されている。古事記で用いられている漢字では越=高志である。これは、僕の下の名前と同じ漢字だから、もしもこの名前が選ばれて、僕がこの米を生産した場合、「高志が毎年遠呂智を生産する」という事になって、ちょっと洒落が効いてるんじゃないかな、とひそかに思っていた。

 ふたひねりぐらいしたネーミングだから、たぶん言わなければ気づく人はいなかっただろうが、万が一バレた場合には各方面の関係者から白い目で見られそうな気もするから、今考えるとこの名前が選ばれなくてよかったような気もする。