孤独の発明

主に米作りとか酒造りについて

福山の品種特性

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 四月二十日浸種。四月二十七日、わずかに鳩胸状態。幸玉や八雲、改良雄町などに比べると遅いが、意外と早い。四月三十日に水を切って冷蔵保存。

 五月九日に播種。発芽率は意外と良く、ほとんどの種が発芽した。

 五月二十七日定植。生育はそれほど良くないが、細いながらもひょろっとした感じはなく、そこそこ順調に育っているようには見えた。

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 少し分げつが少なく、おとなしい生育。

 

 八月三十日出穂。

 十月十二日成熟。

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 晩生。出穂から成熟までの積算温度は829度。積算温度は足りないが、他の晩生種と比べると、意外にも登熟率は高め。モミは透明感があり、汚れのない黄金色でとてもきれい。

 茎数26本くらい、一穂粒数180粒くらい、草丈125センチくらい、穂長26センチくらい、稈長99センチくらい。

 福山は今回栽培した品種の中ではもっとも古くに育種された品種。現役最古と言われる雄町が見出されたのが安政六年(1859年)で、福山の発見は嘉永五年(1852年)。さらに、福山は「庭溜」という稲の中から発見されたが、天和二年(1682年)に記された「田法記」に載っている「庭溜りの稲」と何らかの関係があるのであるとすれば、さらに古いルーツがあるではないか、と若干興奮しながら種子を発注したけれど、育った稲は、当たり前のことを言うようだが、稲らしい姿をした普通の稲である。

 どんな姿の稲なのだろうか、と想像をたくましくしすぎていたのか、成熟した稲の姿を見るとなんだかとても拍子抜けした。確かに長稈大穂大粒の晩生種なので迫力はあるが、亀治や中生曲玉などのモンスター級と比較すると印象は薄れる。

 茎は長いが結構太く硬いので、案外倒伏には強かったのかもしれない。他の晩生種に比べると、若干穂が軽いかな、とも思う。茎がピンと立って株全体が均整のとれたフォルムをしているので、なんだかあっさりとした感じを受ける。

 栽培面でも特徴らしい特徴は感じられず、当時としては良い米だったのかな、というぼんやりとした感想しか出てこない。

 

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 千粒重は26.0g、心白発現率は0%。

 近所の直売所の食味計によると、水分18.4%、たんぱく質6.2%、アミロース値17.3%。

 

 心白がほとんど見当たらないが、大粒ではある。粒は細長い形態。米の溝がやや深めで、粒に光沢がないため、玄米の見た目はあまり良くない。

 やはり乾燥しきれなかったために、水分が多い。たんぱく質はかなり低く、アミロース値は高めだから、サバケが良くて、まあまあ溶けやすい特徴なのかな? と思われる。一般米としては酒造に向いた米なのだろう。

 他の品種に比べると、栽培性もまだマシだし、そこまで醸造適性に難があるわけでもないだろうが、あえてこの品種を選ぶ必然性が感じられない。

  勝手に復活させておいてなんだが、面白味に欠ける品種だと思った。