孤独の発明

主に米作りとか酒造りについて

カレー粉

 実家に帰省した際、「こういうの店で見かけて、たぶん好きだろうから買っておいた」と妹にギャバンのカレースパイスセットを貰った。

 この袋の中には、ニ十種類のスパイスが入っており、それらをすべて混ぜて、油と共にフライパンで乾煎りするだけで手作りのカレー粉が出来上がるという、簡単便利な商品。なるほど、実に楽しそうではないか。
 別にカレーが好きで好きでたまらないとか、スパイスにこだわったカレー作りが趣味というわけではないのだが、なんかこういう変わったものは好きだから、ありがたく頂く。

 しかし、昔からちょっと思っていたのだけど、カレーのスパイスって、こんなにたくさんの種類混ぜ合わせる必要があるのだろうか?
 人間の鼻とか舌で判別できるのは五種類とか、せいぜい十種類くらいのものだと思う。スパイスは、単体で少量使っても尖った味や香りがするもので、だからこそスパイスなのだと思うが、こういう強力な素材を多種大量に使うカレー粉って、ちょっとやりすぎなんじゃないだろうか? 
 そう思ったので、スパイスを混ぜながら、カレー粉に必要不可欠な要素ってなんだろう、と考えてみることにした。f:id:onansasa:20190114164257j:plain
 ギャバンのスパイスセットの内容。
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 ハウス食品のカレー粉があったので、これを比較対象にする。主となるスパイスは大体同じ(クミンとコリアンダーの比率が逆なので、ハウスの物の方がさわやかな後味はある)だが、原材料欄の後ろの方に書かれているスパイスがギャバンのものとは結構違う。会社による配合の違いもあるだろうし、商品設計として、ハウス食品のものはカレーに使うカレー粉というより、料理にふりかけてカレー味の料理を作るための商品っぽいので、スパイス感が強められているからだろうか。
 (後にギャバンの出来上がったものと比較してみたら、ハウスのものの方がよりスパイス感が強く感じられた。おそらく第一にはターメリックの割合が低いからだと思う。さらに、コリアンダー、シナモンやスターアニスクローブなどの香味が強く、ハーブも効いている感じで非常にさわやかに感じられた。)

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 まず、スパイスセットの中でもっとも比率の高い、ターメリック(20g)、クミン(14g)、コリアンダー(12g)の三種類を混ぜてみる。
 これらのスパイスはそれぞれ単体で匂いを嗅いでみても、すでに「あ、カレーっぽいな」と思うくらいだから、けっこうこれだけでカレー粉として成立するのではないか。
 三種混ぜたものを、目隠しして口にして「これなんの味だと思う?」と聞かれたら、大抵の人は迷わずカレーだと答えると思う。ただし、ターメリックが多く、もさもさと粉感が強いため、カレーらしいスパイスのエッジが効いてないような。


 次に、上位十番目までのスパイスを混ぜる。ターメリック、クミン、コリアンダーまでは、単体でもカレーっぽさを感じていたけど、五パーセント以下のスパイスは、「え、これ本当にカレー粉に入っているの?」と思う香り。匂いも個性も強い。
 まだもさ感が強いが、だいぶスパイスが効いてきた。とくに、ガーリックの味と香りは、わずか三グラムなのにとても強い。そして、カエンペッパーの辛味はすごく尖っている。単体で嗅ぐと違和感のあるシナモンやフェンネルだけど、クミンやコリアンダーに包み込まれると、ちゃっかりカレーらしい顔をし始めるのが不思議である。

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 全て混ぜてみる。当たり前だけど、どのスパイスも香りや味はずいぶん異なる。しかし果たして全部混ぜてしまったらスパイスの違いがわかるのか、と思ったけど、入っていることが分かっているなら、特徴的なやつは感じ取れる。特にクミン、コリアンダー、シナモン、ガーリックなどは分かりやすい。陳皮(みかんの皮)とターメリックは、材料の構成比のわりに個性があまり強くない。これらはスパイスを包み込む結着材的な役割をしているのではないか。

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 すべて混ぜ合わせた後に、大匙一杯の油をフライパンに入れ、乾煎り。焦げると苦味が出るので焦がさないように、と注意書きにはあるけど、どの程度まで火を入れたらよいのかわからないので、こわごわ加熱。慎重にやったつもりだけど、なんか香ばしいような・・・・・・ちょっと苦味を感じるのは、ターメリックのせいだろうか? それとも、すこし焦がしてしまったのか? 火を入れても色が変わらないからよくわからん。
 乾煎りすることによって、それまで別個に顔を出していたスパイスたちが、一団となって整列したみたいだ。スパイスが混ざった香りから、カレー粉へと、味や香りがそれっぽくまとまったといえばまとまった気がする。
 個々のスパイスによる自己主張は薄れたけど、全体としての圧力はそれ以上に感じるので、微妙な香りや味のスパイスを数多く組み合わせることによって、香味の厚みや深みが生み出されているのかな? 

 スパイスは五味(甘塩酸苦うま味)とは異なる味覚なのだろう。五味を引き立てるためにスパイスを使うなら(たとえばステーキに胡椒を振りかけるように)、単体を少量使うだけで十分効果が出るのだと思う。しかしスパイス自体の香味を主役にしようとする場合、一種類のスパイスを大量に使うとそれだけが強くなりすぎてしまうから、多種類を少量ずつ組み合わせることによってバランスを保ち、また味の厚み深みを出しているのではないだろうか。
 カレーっぽくしたいというだけなら、もっと少数のスパイスだけでもそれらしくなりそうだが、カレーというスパイスを主役にした料理を作るためには、それなりの数のスパイスは必要不可欠なのかもしれない。
 しかし、ターメリック・クミン・コリアンダーさえ入っていたら、ある程度のカレーらしさは保証されると思うので、好みに応じてもっとスパイスで遊んでみても面白いんじゃないかな、と。