孤独の発明

主に米作りとか酒造りについて

作業ズボン

 朝、仕事に行く前に服を着替えていたら、いつも使っている作業ズボンが見つからない。

 おかしいなーと思って服の入っている箱をひっかきまわしていたら、別のズボンが出てきた。

 何故かはわからないがなんとなく嫌な予感がしたんだけれど、まあ、何でも良いや、と思ってそのズボンをはいて仕事に出かけた。

 始業時間になって十五分後くらいに、このズボンをどうして奥深くにしまい込んでいたのか、という理由を思い出した。

 このズボンはたしか、去年の今頃ジュンテンドーだったかで3000円くらいで買ったものである。見た目は安っぽく、生地もペラペラだけど、実はさまざまな先端技術が取り入れられた多機能なズボンなのだ。

 特にユニークなのがジッパーの自動展開機能であり、このズボンの股間のチャックは、人間の存在を感知すると自動的に開き始める、という画期的な機能を有している。

 どこにセンサーがあるのかはわからないが(たぶん最新のナノマシンとかAIでも使っているんだろう)、どれほど注意深くジッパーを引き上げても、十五分ほどすれば社会の窓は必ず全開になる。それはもう見事なもので、このズボンを設計したデザイナーは大したものだな、と感心すらさせられる。

 ただしなにかよっぽど特殊な使用法でもない限り、ジッパーの自動展開機能というのは使用者にとって不便なものだから、TPOに合わせてこの機能をオフにする方法が無いというのが、このズボンの唯一の欠点である。

 酒蔵のような人界と隔離された職場ならまだしも、それ以外の大半の場所ではこのズボンの使い道は無いと思うし、ジッパーが開いていないか確認するため、再三再四股間に手を伸ばし続けなければいけない、というのは下手をしなくても客観的には変態行為になるのではないだろうか。

 始業十五分後の時点で、「あ、このズボンあかんやつや」という事を思い出したが後の祭り。

 今日は酒蔵の仕事が特に忙しくて、文字通り飛んだり跳ねたりして作業していた。ジッパーの展開機能は、激しく動くほど発揮されやすくなるものなので、それにともなってすごい勢いでチャックも上下し、今日一日だけで少なくとも二十五回は往復していたはずである(本来の用途である、トイレの際の上下動の回数は除く)。

 こんなズボン、作ろうと思ったってなかなか作れるもんじゃないな、と僕は改めて感心をし、家に帰ってから速攻でゴミ箱にズボンを叩き込んだ。

 二度とはかねえよ!