孤独の発明

主に米作りとか酒造りについて

等級の意味

 乾燥を終え、籾摺りを行って、ようやく米の姿を見ることができた。

 グレーダーで未熟米をずいぶん弾き飛ばしたため、収量はだいぶん減った。反当450キロ程度と結果的には予定の収量になったが、品質に関しては不満が残る。やはり青米が多いし、米の粒張りがあまり良くなく、米の表面の溝も深くハッキリ入ってしまっているように思える。

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 死米が多いのは改良雄町だから仕方ないにしても、これほど青が多いと等級は下がるかもしれない。色選にかけて青だけ弾けば一等になるとは思うけど、果たしてそれをやる価値はあるのかなーと思う。

 農家の立場からすれば、色選を通せば収量が目減りするだけでなく、色選の費用として一俵いくらで金とられるわけだから、その辺を考慮すると、たとえ等級下がって買取値が少し低くなったとしても、そのままで出したほうが得する場合も多い。どうせ青米は精米の際に砕けるのだから、わざわざ金払って取り除いたところで……という思いもある。米を買う酒蔵からすれば、無効精米歩合が増えるから、その分は損をすることになるのだけれど、等級低い米は安くなるので無効精米になる分だけ余計に削れば良い話ではある。

 結局、ロス出る部分の費用負担を、どちらが被るか、という問題。

 

 米の良し悪しを判断する基準として、もっとも一般的に用いられているのは、等級検査の評価だろう。醸造用玄米の場合は「特上・特等・一等・二等・三等」の五段階に分けられて、米の出来が評価される。

 しかし一方で、「米の等級がそのまま酒米としての良し悪しではない」という事は、酒造りの現場において半ば常識のように語られている。「検査等級は見た目だけの評価であって、その米の内容とは関係がない」みたいな話である。

 実際に、米の等級検査は、専門の資格を持つ検査員が目視で行う。整粒歩合、水分率、死米や着色粒、モミや異物の混入具合を数えてみて、どの程度の水準であるかを判断する。

 要するに、ダメな米(欠けたり割れたり、未熟だったり色ついてたりするような粒)が少なければ等級は高くなるという事で、そういう点を見るのであれば極端な話、米粒選別機のメッシュ幅を大きくして、色選を掛ければ等級を上げることは難しくない。

 ただ登熟不良の稲やカメムシの被害が多い米なんかの場合、選別基準を厳しくするとクズ米が多くなって歩留まりが悪くなるので、無理して等級を上げようとすると却って損をする、なんてことにもなりかねない。逆に上手にできた米ほどダメな粒の割合は少ないので、そのままでも等級は高くなるし、等級を上げるために選別してもロスは出にくい。当たり前のことを言うようだが、よくできた米ほど等級は上がりやすい。

 米の等級は結局のところ、精米の際の歩留まりの良し悪しを表すための指標なのではないか。ダメな米は精米時に砕けるので、ダメな米が少ない=等級が高い米ほど、精米時のロスが少ないから、良い米だという発想なのだろう(ただし実際のところ、精米時の胴割れ率の大小などは等級の高低だけでなく、乾燥方法による影響も大きい。等級がどの程度歩留まりを左右しているのか、疑問である)。

 それ以外の、酒米に求められる性質として重要な「千粒重」「心白発現率」「たんぱく質の少なさ」などは、等級検査の際には直接は考慮されない。ただ、検査の際には色や粒張りの良し悪しも見られるので、間接的にはこれらの要素もチェックされている事にはなるだろう。米の粒張りが良ければ、千粒重は大きくなる。心白の発現率やたんぱく質の少なさは、千粒重の大きさと相関が大きいので、良く充実した米ほど酒米として適しているのは間違いがない。

 等級がすべてではないにしろ、等級が高い米の方が優れた酒米である、と考えておいても、それほど間違いではないかと思う。

 

 最近では、米の良し悪しを判別するための指標として、検査等級だけではなく、米のたんぱく質も測ろう、みたいな事を言い出す人が増えてきた。

 米に含まれるたんぱく質は、酒の質に直接影響を与える。わざわざ何十パーセントも米を削るのは、たんぱく質を減らすためなのだから、元々の米のたんぱく質が少なければそれに越したことはない。

 それだけではなくて、たんぱく質の大小というのは、米の千粒重や心白発現率との相関関係が大きい、という事もある。米粒のたんぱく質が増える原因はいくつかあるけど、多くの場合、稲に与えられた窒素肥料が過剰だったために、稲が必要以上の粒数のモミをつけてしまい、光合成が追い付かなくなって、モミ一粒あたりに蓄積されるデンプンの量が少なくなる、という感じだ。

 米に含まれているたんぱく質のほとんどは、胚芽の部分と玄米の表面の糊粉層(いわゆる赤ヌカの部分)に含まれているが、光合成産物(デンプン)の蓄積が不十分な米粒は、含まれるたんぱく質に対してのデンプン量が小さくなるため、相対的にたんぱく質の量は大きくなる。空気をたくさん入れられて膨らんだ風船は、表面のゴムの部分(たんぱく質の層)がのびて薄く透けて見えるけれど、同じ風船であっても空気の抜けたものは表面のゴムの厚さが分厚くなる、みたいなそんな感じ。

 そのまま風船のたとえでいうと、空気のたくさん入ったものの方が、空気の抜けたものよりも当然体積は大きくなる。風船の中の空気をデンプンに置き換えて考えてみれば、たんぱく質が少ない米の方が千粒重が大きくなる理屈が分かりやすいと思う。そして、米の千粒重は心白発現率との相関が大きいので、たんぱく質が少ないほど心白発現率が高くなることも言える。

 米に含まれるたんぱく質の量は、その総量だけではなくて、削りやすさも考慮する必要がある。胚芽がとれ易いか否かとか、米の表面の溝が大きいかどうか、などによって、精米効率はずいぶん異なる。充実し膨らみのある粒張りの良い米ほど、米の表面の溝は小さくなるので、同じ品種の米の場合にはたんぱく質量が少ないほど、精米効率もよくなることになる。

 等級の場合にも、見た目からある程度はたんぱく質量、千粒重、心白発現率などの数値が分かるかもしれないが、それよりもたんぱく質を直接測ったほうが確実だし、定量化して良し悪しの比較もしやすいのである。

 

 等級検査には、人の目で検査するが故の問題点も、いくつかあると思う。

 主産地の農協などには、酒米の検査に慣れた検査官がいるのかもしれないが、ふつう酒米というのは稀なものだ。

 僕の知り合いの検査官で、五百万石や佐香錦なら見たことはある、という人には数人出会ったが、改良雄町を見せると一様に「何じゃこりゃ、改良雄町とか見たことないわ」という反応が返ってきた。

 一度も改良雄町を見たことのなかった検査官が、はじめて改良雄町を検査する場合、仮に良い米を持って行ったとしても、常識的に考えて「特上」や「特等」のような評価をつける勇気のある人はいないんじゃないかな、と僕は思う。

 「まあ、ほどほど無難に、一等くらいにしておこうか」みたいに考える人が大半ではないか?

 普段から特上、特等を見ていれば、「これくらいなら特等にしても良いな」と判断できるんだろうけど。

 実際、島根県で収穫された酒米では特等以上が出ることはほぼない。現在島根で栽培されている酒米が、検査等級で良い評価を得られにくい品種である、という点もあるのだろう。また、苦労して特等とったところで別にそこまで値段変わらないし……という、農家のモチベーションの低さも影響しているとも思う。ただ、それだけではなく、検査官に特等以上をつける気はあるのだろうか、という邪推も、つい、したくなってしまう。

 

 改良雄町の場合、登熟期が揃わないので、適期収穫を行えばどうしても青米が混じる(それにしても僕の今回の米は多すぎだが)。青米を減らそうとおもうと、刈り取りを遅らす他ないが、そうすると酒米は容易に割れる。青米は選別で弾けるが、胴割れは直せないから、遅らせるよりは早いほうがマシなはず。とはいえ、小さな胴割れは目視で確認しにくいから、これなら多少刈り遅らせたほうが、等級的には良くなるんじゃないか、と思わないでもない。

 等級検査は個々の品種特性はあまり考慮されないので、結果的に品種によって良い等級をとりやすいものと、とりにくいものがでてくる。それは、酒米醸造適性とは別の意味での、等級格差であるので、この辺どうにかならんものかね、と思ったり。

 

 無効精米歩合を減らすことを考えるなら、胴割れ率のことを考慮しなければならない。刈り取り遅れによる胴割れや、籾摺りの巧拙、乾燥の仕方によって胴割れは増える。

 目でみて分かる胴割れは、等級検査でも調べられるが、目で見てもわからない小さな胴割れというものもあり、これがあると精米時に米が割れて大きな胴割れや、無効精米になる。

 目に見えない胴割れがあるかどうかを、現場で判別する方法があるのかはわからないが、適期刈り取りと、乾燥方法をちゃんとすれば、胴割れのリスクは下げられると思う。

 出来上がった米を評価するだけではなく、刈り取り時期や乾燥法も含めた作られる過程もチェックする必要があるだろう。

 

 等級検査にも一定の意味はあると思うが、等級検査だけで米の良し悪しを判断するのは難しい。

 現在行われている酒米の検査で、結局何をみたいのかというと、原料の歩留まりと、醸造適性ではないか。

 歩留まりに関しては、等級検査(ダメな米の多さ)と胴割れ率(見えない胴割れも含めた、精米時に割れる確率)。醸造適性に関しては、等級検査(粒張りと米表面の溝の深さなど)とたんぱく質量をみればある程度理解できるはず。

 理想を言えば、調べられる要素は調べた方が良いと思うけど、それはあまりにも大変なので、簡単に調べられてなおかつ、実際酒造りへの影響が大きい勘所を押さえた検査方法であればよい。

 どの要素が、どの程度、歩留まりや醸造適性に影響を与えているかがわかれば、もう少し実態に近い米の評価ができるのではないかと思います。

 

 

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 近所の産直市においている、米の食味計で測ってみた。ただし、この機械の精度には疑問がある。

 

 去年の米は、たんぱく質7,8~8,0%、アミロース値19%程度。
 今年の米は、予想に反してたんぱく質は低かったが、このアミロースの低さは謎。食用の一般米並みの低さなので、食味値(たんぱく質量とアミロース値の総合値)は高くでたが、アミロースが低いと酒米としては粘ってサバケが悪くなるので良くない。この機械で出るアミロース値は参考値なので、これは誤差だと思いたい。
 端数の残った米を炊いて食べたが、さほど粘る感じはしなかった。コシヒカリに比べると、甘味や食感は物足りなかったけれど、普通においしかった。
 酒米はちょっとパサついてさばけが良いので、カレーやチャーハンにするとよりおいしく食べられます。