孤独の発明

主に米作りとか酒造りについて

銀坊主

 「銀坊主」

 来歴

 「銀坊主」は明治の三大品種「愛国」から選抜された品種である。「愛国」の出自には諸説あり、最も有力とされているのは、明治十五年に静岡県の高橋安兵衛が晩生稲「身上越」から出穂の早い株を選抜した「身上早生」が起源であり、明治二十二年にその種子が宮城県に送付された際「愛国」と命名され、以降広まった、という説である。この説を元に静岡県の高嶋酒造という酒蔵が「愛国」を復活させ、積極的に使って酒を造ってたりする。

 異説には、宮城県の飯淵七三郎が明治二十七年に広島県農事試験場から持ち帰った「赤出雲」という品種が由来である、というものもある。明治二十七年はちょうど日清戦争が行われていた年で、大本営が一時的に軍都広島に移されていた(ちなみに大本営はかつての広島城に建設され、今でも広島城にいけば大本営跡地をみることができる)。

 そのためこの年の秋に、広島で臨時国会が開かれることとなった(東京以外の場所で国会が開かれたのは憲政史上この時だけだそうだ。国会開会のために、わざわざ仮設の国会議事堂まで建設されたという)。

 宮城県選出の貴族院議員であった飯淵七三郎はこのとき広島を訪れた。その折、広島県の農事試験場から持ち帰った品種が「赤出雲」であり、これが「愛国」の祖となったという。

 ただ、「赤出雲」という品種の記録が広島の農事試験場には残っていなかったので、この説を検証しようといろいろ調べた結果、「出雲早生」という品種がどうもそれらしい、という事がわかった。

 九州大学が戦前の稲品種栽培記録などをまとめたデータベースで「出雲早生」の来歴を調べてみると「1899年(明治32年広島県に作付あり。出雲より純分(純系分離)により育成。出雲種は古代出雲族の稲で赤粳赤糯黒粳黒糯の四種あり。」などとある。「出雲早生」はいわゆる赤米ではないが、ノゲの色が赤色なのでモミが赤っぽく見えたようだ。「赤出雲」の赤とはその意味ではないだろうか。ちなみに、「愛国」もノゲの色が赤く、形態的特徴も「出雲早生」に非常によく似ていることから、この説を押す人もいる。島根に住む人間としてはなんとなく、後者の説を押したくなるが、残念ながら今のところ前者の説の方が有力らしい。

 余談ではあるが、「出雲早生」から選抜された変種の超極早生品種「衣笠早生」は、米の二期作栽培に適した品種として、高知県二期作栽培の発展に大きな役割を果たしたらしい。

 

 「愛国」という米についてはよく知られているから割愛して、「銀坊主」である。

 明治四十年に富山県の石黒岩次郎は、思い切って田に大量の肥料を投入してみた。その結果、彼の田んぼは耐肥性が強いことで知られる「愛国」でさえ全面倒伏するほど窒素過剰になってしまったのだが、石黒岩次郎はべったり倒れた田の中で一株だけ倒れずに立っているものを見つけた。その株からとれたモミは「愛国」の特徴である赤いノゲを持たず、白っぽく輝いて見えることから「銀坊主」と名付けられ、後に山陰北陸地方を中心に広く栽培される品種の基となった。

 「銀坊主」の特性は、「愛国」よりも晩生ではあるが、とびぬけた耐肥性を持つという点にある。収量が優先された時代には、何よりも重要な性質であった。交配によって作り出された品種が出周り始めた後も、優れた収量性を持つこの品種の人気は根強く、最盛期の昭和14年(1939年)には日本全国で15万ヘクタールにもわたって栽培されていたという。

 稲に耐肥能力を付加するための交配親としても「銀坊主」は重宝され、「農林8号」「農林13号」「農林15号」などの品種を生んでいる。特に「農林8号」は著名であり、「近畿33号(改良雄町の親)」の親としても(僕の中では)良く知られている。

 「銀坊主」の稲としての特徴は、ジーンバンクなどによると、稈長は90~100センチ程度だが、茎が太く頑丈で倒れにくい。また、いもち病に対する抵抗性もあったようだ。極端な穂数型の草型をしており、当時の在来種としては収量が良く取れた。出穂期は八月二十~三十日あたりで、「愛国」よりはやや遅れる。

 千粒重は21グラム程度で小粒である。心白発現率もほとんどないようで、いわゆる酒米らしい見た目をした酒米ではなかったのではないだろうか。

 耐肥性が強いという事は、窒素肥料を多くやれるという事であり、必然的に米のたんぱく質は増えるだろうから、酒米としては不向きなようにも思えるのだが、にもかかわらず酒米として多く使われていた、という事実がある。単に、多収で安かったからよく使われたという事だろうか? それとも、多収とはいえ現代の多収品種ほどではなく、それなりに醸造適性は備えていたのだろうか? その辺のことはよくわからない。

 隣県の鳥取で、山根酒造さまがこの「銀坊主」を使った酒を造っていた(僕も買って飲んだことがある)。